第5回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『世界は『真実』で満ちている』 中垣秀隆

 イデアル・ストーンという魔法石を体内に取り込んだ者たちは、命の危機に瀕したとき、あるいは誰かを守りたいと思ったときに、通常以上の力――『想いの力』を出せるようになる。そうして人類は凶暴化する魔族に対抗していたのだが、ある野営地ではその力が徐々に弱まり、死人が増えてきたという。原因を調査するため、精神科医アストは護衛役の少女とともにかの地へ赴いた。

評価コメント

 いかにもファンタジーらしい世界観ではありますが、『想いの力』の設定がうまく活用されているため、ミステリーとしても読み応えのある作品に仕上がっています。戦闘の最前線である野営地における込み入った人間関係、特に作中の「ある人物」を巡る想いの奇妙な絡み合いが見事に機能し、謎解きが緊迫した名場面となっていました。物語の筋立てや設定を壊さないように慎重にキャラを立てているのも好印象。中でも、自分のことをやたらと卑下するグレースの台詞回しと、抜けてはいるものの締めるところはきっちり締めるシオンの強キャラ感が印象に残っています。
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