第3回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第3回『このラノ』大賞 / 栗山千明賞

『サマにならない英雄伝説』 遊馬足掻

作者プロフィール
日本の端っこの方に在住。夢が叶ったので、これからの人生設計をどうすればいいのか、大慌てで模索中。自分探しの旅という言葉が微妙に非難される時代になってしまったので、甚だ肩身の狭い思いをしながら、人生の二度寝真っ直中でございます。

あらすじ

 魔術と体術を極めた英雄が求めたものは、小さな幸せ……仲間との楽しい語らい、愛する家族と過ごす平穏な生活……だったのに!!!
魔王瞬殺→仲間「お前といるとつまらん」えっ?
実家に帰る→空き家「私たちを捜さないで!」えっえっ?
失意のラグナが考えたのは「弱くなること」。でも、どうやって!?
希望を託し、いろんな意味で評判の残念系ロリ美少女・ルーチェ(応募時:ルーネス)に占ってもらった結果、自身に膨大な数・10008の呪いがかかっていると判明……がんばれラグナ! 呪いを解いて、普通の幸せを手に入れるんだ! 人生はトライ&エラーだ!(たぶん)。 
最強勇者・ラグナの苦悩と冒険(?)が今、始まる!

受賞コメント

 この度は、『このライトノベルがすごい!』大賞・栗山千明賞に選出して頂き、誠にありがとうございます。
 ところで、子供の頃というのは、根拠のない自信に満ち溢れているもので、余り深く物事を考えずに行動する事が多々ありますよね。
 私もその例に漏れず、「この通学路は既に極めた。もはや目を瞑ったままでも余裕で学校まで辿り着ける!」と、ある日急に覚醒し、ランドセルを背に、瞑目したままで登校を試みた事があります。
 しかし、世間はそれほど甘くはなく、文字通り壁にブチ当たってしまい、その青い自信に満ち溢れた心は、前歯の一部と共に折れてしまいました。
 唇は腫れ、血と涙がポタポタと地面に落ちる中、ずっと俯いたまま一人で学校までの道のりを歩き、人生の厳しさを噛み締めたものです。
 あれから幾ばくかの時が流れましたが、俯き癖は相変わらず。
 そんな体勢のまま、暗中模索の末に投稿を試みた物語は、沢山の方々に支えられ、世に出ようとしています。
 今度は、貴方にぶつかってしまうかもしれません。
 その時は、焼きたてのパンを咥えていて貰えると嬉しいです。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 魔王を瞬殺!強くなりすぎてしまった勇者という、英雄伝説のその後が描かれた異色作。通常ならめでたしめでたしで終わるシーンを冒頭にもってくる大胆さにビックリ。しかし素晴らしいのは、その後の展開です。ともすればワンアイデアで終わってしまうところを、戦闘や制圧戦を数行、場面によっては一行で終わらせるという手法を取り入れ、軽やかな独特のテンポで次々とエピソードが盛り込まれます。ストーリーはどんどん進むのに、勇者ラグナと占い師ルーネスのボケツッコミな会話でどこかのんびりした雰囲気。弱くなりたい勇者がこれほど滑稽だったとは!

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 個人的イチオシの作品。
 既存の設定から一歩抜け出た個性的な設定の数々が魅力。魔王が主人公な話は時々見るし、強すぎる英雄が国家から排斥の対象になるのも同じくだが、最強主人公が強くなりすぎたことを憂い、自殺や世捨て人という方向性ではなく、自身の弱体化を求めるとは想像の斜め上をいっている。またところどころ挟まれる小ネタが光っていた。ルーネスの猟奇占いを皮切りに、読んでいておっと思うことが多く、最後まで飽きることなく一気に読めた。ヒロインも素直ではないが主人公を気にかけている様子がうまくつたわってくる。またラグナとルーネスの掛け合いはテンポがいい。 全体的にコメディテイストだが、さらっと重くなりすぎない程度にシリアス要素もうまく入れてあり、物語にメリハリがついている。

タニグチリウイチ(書評家)

 超強い男が、超ありえないことをやってしまうスケール感に超驚嘆。正義の味方として力を振るいながらも、とてつもなく強すぎて、頑張っても誉められず、妬まれるだけの日々を残念がり、10008人もの魔王を育てて自らの力を分け与え、強さから逃れようとする。あまり正義の味方っぽくない振る舞いも、その強さなら仕方がないか、なんて思わせる。応募時では、そんな魔王育成の物語と、強さの秘密をめぐる物語がごっちゃになっていたけれど、刊行される時にはどこまで整理が出来ているか。スケール感を出せてキャラクターたちの心情にも気を配れる才能が、筆を整えて出してくるだろう作品に注目だ。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 最近のライトノベルはオレサマ最強状態の主人公が多い中、最強の主人公が弱くなるために奮闘する逆成長ファンタジーという発想にまずは驚かされた。しかも、そのために魔王を10008人育てるとはさらに驚かされる発想。また、物語自体は主人公の相方となるキャラクターとの掛け合いはテンポがよく、そのテンポにつられるようにサクサクと読み進むことができた。中盤で相方がちょっといなくなった時にテンポが重くなると感じるあたり、この二人はメインキャラとして良くつくられています。

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 主人公が弱くなる為に冒険するという斬新な異世界ファンタジー小説。コメディとシリアス部分が混じり合っていて読みやすい作品でした。ルーネスやロキ等、主人公をサポート(?)するキャラクターもそれぞれ個性があり、非常に魅力的です。個人的には、どんなに強そうな2つ名がある敵も一撃でぶちのめす主人公がツボでした。