第3回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『この大空に花束を~rain in the hearts~』 志御

 交通事故にあったせいで二ヶ月遅れて高校生活を開始した神前冬弥は、クラス委員の久森七海の手伝いをしていた際、偶然に彼女の幼馴染みである宮川鈴音の持っていた本を見てしまう。動揺する七海と鈴音。なぜなら他愛のない空想劇が描かれた「星花」という題名のその本は、読んだ者にその空想を体験させる力があるというのだ。興味を惹かれた冬弥は彼女たちの所属する部活「空想科学研究会」に入り、そして、ひとつの奇跡を体験する。

評価コメント

 最初に仮説があり、そこから実証(物語)が展開し、あるべき姿に行き着くというSFに必要不可欠な構成を、正しく筋道立てて描ききれている点に感心しました。そして「タイムトラベル+青春もの」というオーソドックスかつ大きなテーマに取り組み、きちんと作者ならではのエンディングに至れている点も評価したい点です。さらに、文章に作者の「雰囲気」があり、SFというシステマティックで固い題材をやわらかく見せられていることにも好感を持ちました。このように「作者ならでは」の点があることは、小説というある意味、評価のわかりにくいジャンルでは非常な武器となるものです。
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