第4回『このライトノベルがすごい!』大賞 最終選考結果

第4回『このライトノベルがすごい!』大賞決定

第4回『このラノ』大賞

大賞:『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常』 
長谷川 也(はせがわ・なりや)

(応募時タイトル:『セクステット ~ぼくと五つの女優の卵~』)
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金賞&栗山千明賞:『魔法学園(マギスシューレ)の天匙使い』 
小泊フユキ(こどまり・ふゆき)

(応募時タイトル:『伝達者』 応募時筆名:小泊重行)
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優秀賞:『ヒャクヤッコの百夜行』 サブ

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優秀賞:『非モテの呪いで俺の彼女が大変なことに』 藤瀬雅輝(ふじせ・まさてる)

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総評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
吉原圭司(「コミックとらのあな」)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 あらゆる意味で原点回帰。最終選考会に臨む際、『このライトノベルがすごい!』大賞らしい作品とは何かを考えました。すでに4回目、答えは出ているつもりでしたが、価値基準も時間とともに変化します。
 最終選考に残った作品は4つ。それぞれ大きな可能性と魅力があり、どれが大賞になるのか全くわからない状況でした。そのため順位にはこだわらず、より良い作品になるよう、なにかしら協力できればという気持ちでした。作品ごとに担当編集からプレゼンがあり、他の選考委員と意見を交わし、発表の結果となりましたが、あらためて実感したことがあります。私含め編集も選考委員も、流行の作品かどうかをあまり選考の基準に置いていないことです。考えれば当然のことで、裾野が広く、移ろいの早いライトノベル業界では、今の流行を追っても意味がありません。流行が評価の基準にないなら、どこに基準があるのか。それはおそらく、『このライトノベルがすごい!』大賞の場合、作品にどれだけ情熱をかけられたか。つまり自分が楽しい、書きたいと思った作品に、どれだけライトノベルらしい面白さを追求できたかではないか思います。それが第1回から求め今回再確認した、『このライトノベルがすごい!』文庫らしさです。今までそうであり、今回も選考にその影響が大きくでました。今後もそうだとは言い切れませんが、投稿の参考にしていただきたいと強く思います。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 今回は例年と違い、最終選考まであがってきたのが4作品ということで完成度についてやや警戒していたが、ふたを開けてみれば強烈に個性的な作品はなかったものの、手堅くまとまっていた。その中で一歩抜け出た完成度を持っていたのが『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常 』(応募時タイトル:『セクステット ~ぼくと五つの女優の卵~』)。キャラ作りの上手さが光っていたが、個人的には会話劇のギャグにオタクネタを使わず、読み手を楽しませることができていたことを評価したい。これは投稿作品に限らず、商業作品として流通しているライトノベルにも当てはまることだが、内輪受けするオタクネタによるパロディは特定層には強いが、元ネタを知らないとおもしろくなく、読者の幅を狭める危険性をはらんでいる。そこを上手く処理してパロディを作るのもテクニックだが、まずはオタクネタを使わずに作品を創り上げられるよう努力してみてもらいたい。
 『魔法学園(マギスシューレ)の天匙使い』(応募時タイトル:『伝達者』)はスプーンで戦うという設定やあえて主人公を6位という半端な立ち位置にした部分に惹かれた。実際、作品の持つ可能性は随一だった。投稿時の完成度では荒削りな面が多かったために大賞を獲得するには至らなかったが、発売までにどこまで進化するか期待したい。
 『非モテの呪いで俺の彼女が大変なことに』は、主人公カップルのいちゃラブぶりが映えていた。ラブコメ好きのひとりとして、既にカップルができあがっているタイプは扱いが難しいと重々承知しているが善戦してほしいものだ。
 『ヒャクヤッコの百夜行』については応募作の完成度は高くなかったが、むしろこのゆるさはうまく育てばこの先オンリーワンな書き手として化けるかもしれない。
 今回最終選考に漏れた作品はクオリティは高いが、カテゴリエラーなものも多かったと聞いている。どこまでがライトノベルなのか? というのはなかなか難しい問題で、一様に線引きすることもできないが、「誰に読ませるか?」を意識するだけで簡単に変えられる部分もあると思うので、意識してみてほしい。

タニグチリウイチ(書評家)

 SFはないのかと探してしまうのはSF読みのどうにもならない癖のようなもので、同じような思いをファンタジー好きも抱いては候補に挙がった作品に見つからず、どうして書いて来てくれないんだろうと残念がる。
 それは応募者には何の責任もないことで、むしろSFでもファンタジーでもない日常ラブコメ、学園伝奇、異能バトルといったジャンルのライトノベルに、ベストセラーが多々ある状況から、そうした系譜にいずれ連なっていきたい作品で、コンテストに臨む応募者の気持ちは理解できる。
 今回で4回目となった『このライトノベルがすごい!』大賞にもだから、そうした傾向の作品が最終候補として並んでは、それぞれにいずれかの賞を得た。最初から高い完成度を持った作品に、改稿を経て評判となるだろう原石と揃っていて、本となって世に問われる時を待っている。
 それはそれでとても胸躍ることなのだけれど、既にあるオーソドックスな面白さの延長線上に位置したものではないのか、といった意見をねじ伏せて、評判をごっそりと奪取できる作品かどうかは、読む人たちの判断を必要とするところ。だから広く読まれて欲しいと思うし、そこで異論を浴びればさらに面白い要素が足され、育っていける。まずはご覧あれとお願いしたい。
 その上で欲を言うなら、もっと挑戦が欲しい。SFであってもファンタジーであってもミステリーであっても、キャラクターで魅せつつ驚天動地の設定を、世界を、トリックを盛り込んで描けるライトノベルという枠組みを使って、画期的な挑戦ができるのではないか。一般書籍で活躍しているベテラン作家が新設のライトノベルのレーベルで書き、ライトノベルで活躍した作家がSF専門レーベルやミステリのシリーズに出て活躍している。
何でもありの懐の広さを持ったライトノベルという場を、あるいはスタイルを活かしている。
 だから新人には、ひと勝負をかけてやろう、世間を驚嘆させてやろうという山っ気を持った挑戦者に出てきて欲しい。そう願って止まない。SFだ、ファンタジーだ、けれどもどこにもないSFでファンタジーで、何よりライトノベルだという作品。待ってます。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 今回は最終選考に1作品のみとファンタジーの少ない回でした。
 前回2作品から減ったので個人的には残念とおもったのですが、大賞『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常 』(応募時タイトル:『セクステット ~ぼくと五つの女優の卵~』)の突出具合はそれを補ってあまりあるものでした。“ちょっとすごいもの読んじゃったかも。人より先にこれ読めてよかった”が、率直な感想。選考を忘れて素で楽しんでしまうぐらいおもしろい作品でした。
 そして、今回唯一のファンタジー作品『魔法学園(マギスシューレ)の天匙使い』
(応募時タイトル:『伝達者』)も、設定がおもしろい作品でした。主人公の流派スプーン天匙。それぞれに効果が違うスプーンを駆使する流派。読者がなんじゃそりゃとおもう流派ですが、この発想と設定は非常におもしろい。たぶん、こういったも発想こそがライトノベルでは武器になります。
 最近では小説投稿サイト出身のライトノベル作家も増えてきました。ただ、彼らの多くはテンプレ的なライトノベルを書きます。ちょっとまえのハーレム&学園&異能バトル的なテンプレ的ライトノベル量産体制に、「異世界行って俺ツエー」的な別のテンプレが作られ、量産体制に加わっただけの状態です。
 3年連続ですが言いましょう。「ウケる要素を集めて書かれた小説は確かに面白いですが、繰り返し読まれ、残る作品にはなりにくい」。
 この“ライトノベルが大量に発売される時代”に欲しいのは、作者独自の世界観。作品では読者が神なのではなく、作者が神です。自分の好きなようにいっぱい書いて下さい。ダメだったら書き直して下さい。おもいついたら書き加えて下さい。他の人に真似できないものを創造して下さい。
 あなたが書いたおもしろい世界の物語をもっともっと読ませて下さい。
 もちろんファンタジー大歓迎です。

吉原圭司(「コミックとらのあな」)

 今回初めて『このライトノベルがすごい!』大賞の選考に参加させて頂き、非常に感動致しました。応募作のクオリティ、面白さはもちろんですが、選考委員の方の熱にとにかく感動致しました! 皆さんラノベが好きだ! 面白いラノベが読みたい! という熱い思いをたぎらせ臨まれており、その熱さに私も時間を忘れて選考会自体を非常に楽しませて頂きました!
 そういった熱い議論のすえにだした答え(大賞)が『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常(応募時タイトル:『セクステット ~ぼくと五つの女優の卵~』)です。こちらの作品はとにかく読みやすい! ライトノベルの「ライト」の意味、諸説あり定説もありませんが、字面から感じる印象通りのまさにライトノベル。それでいて非常に面白い。ほぼ会話のみでストーリーが進められていきますが、こんなに絵がはっきりと浮かぶ作品が今まであったでしょうか。是非皆さんにお読みいただきたい作品です!
 そして個人的に今回非常に押させて頂いたのは『魔法学園(マギスシューレ)の天匙使い』(応募時タイトル:『伝達者』)です。とにかく主人公がかっこいい。いや、万年6位だし、やることは空回りだし決してかっこよく書かれてはいないのですが、純粋に努力し、成長していく姿はかっこいいという言葉以外私には浮かびません。努力系主人公が好きな方にはお勧めの作品です。
 来年度、どんな面白い作品に出合えるか今から非常に楽しみですが、来年度の選考会もどんな熱い場になるのか。楽しみです。
皆さん、是非熱い作品を応募してください! 熱い選考会でお待ちしております!