第4回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第4回『このラノ』大賞/大賞

『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常』 長谷川 也

(応募時タイトル:『セクステット ~ぼくと五つの女優の卵~』)
作者プロフィール
 新潟出身の三十才。男。基本的に臆病で優柔不断で女々しい性格をしていますが、だからこそ、せめて自分の得意分野では、それっぽくありたいと思っています。好きなものは大抵の動物。嫌いなものは大抵の病気。趣味は虚構に触れること。

あらすじ

 地味で弱そうで友達の少ない少年・柿谷浬(かきたに・かいり)は、そんな自分を変えるべく、進学をきっかけに演劇部に入部する。だが、彼が入部した演劇部は、普通の演劇部ではなかった。そこは、人間関係を有利に支配し、世の中をうまく渡っていくために『演技』を活用しようとする女生徒たちの集まりだったのだ――。第4回『このライトノベルがすごい!』大賞の大賞受賞作は、演劇部の部室で日々展開される無軌道かつハイテンションな青春模様を描いたハイパー日常コメディ。5人の変わった先輩たちと一緒に、人生の勝ち組を目指せ!

受賞コメント

 このたび、こうして名誉ある素晴らしい賞を頂くことになり、とても光栄です。人生で一番の幸せです。関係者各位には、とにかく感謝をしています。心からありがとうございました。あと、受賞の知らせを聞いたときは本当に驚きました。信じられませんでした。 さて、せっかくの機会ですので、こんな無意味な挨拶ではなく、みなさんの記憶に残るような、もっと気の利いたスピーチをしたいのですが、なかなかそれも難しいので、愚直にお願いをします。
 この作品を、ぜひ読んでください。読んでいただければ、驚かせる自信があります。残念ながら、私の力不足で、読んでいただかなければ驚かせることができないのですが、読んでさえいただければ驚かせることができると思うので、ぜひ読んでください。がんばって面白い小説を書いて、それがたくさん売れて、いつか自分の書きたいことを、いくらでも自由に書けるようになること。そして、何事もやり過ぎること無く、ほどほどの限度というものを知ること。以上二点を目標に、できるかぎり精進してまいります。よろしくお願いします。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
吉原圭司(「コミックとらのあな」)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 やばい、なにこの話、ニヤニヤが止まりません。やたら会話が多く、だらだらとナニつまらない話してんだと思っていたら、思わぬ方向へ急カーブ。おっとり可愛いモモの、サッパリしたツバキの、高飛車なスズメの、予想の斜め上をいく発言に、ブッと吹き出すのを抑えきれません。演劇部という設定から、なるほど会話劇かと納得し、次はやられまいと気合いを入れるもダメ。ゆる~い雰囲気に警戒を解かれ、会話のテンポにのせられ、いつしかニヤニヤ。そして意表をつく、急カーブ。パロディやメタといった、流行りの笑いは決してないのに、笑いに繋げるセンスの良さはお見事の一言です。設定やサービスといった売れ筋路線をぶった切った、キャラクターだけですべてを構築するライトノベルの究極の形がこの喜劇には存在しています。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 他の受賞作と比較して圧倒的に各キャラが立っていた。部室で行われる怒涛の会話のキャッチボールは、スピード感があり、挟まれる少ネタもバリエーションに富んでいる。なにより注目すべき点は会話で使われる小ネタに基本的に一切オタクネタを使っていないところ。これによってギャグが内輪受けになってしまう危険も避けられている。 テーマが『演技』だけに、物語としての目新しさには欠けるものの読んでいる途中でそれを感じさせず、一気に読み切らせるだけの力があった。あえていうと一部キャラ被りがみられたことか。

タニグチリウイチ(書評家)

 こいつは巧い。女性部員ばかりの演劇部に加わったたった1人の男性部員が、女性部員たちと交わす会話はテンポがよく、ギャグも効いてぐいぐい読ませる。個々の女性部員たちが繰り出す自分語りのエピソードも、可愛かったり意外性があったりして実に楽しい。ひとりひとりにバリエーションをつけてあるから飽きが来ない。次に何が来るのかを期待して、その期待を良い意味で裏切るように転がしていく。そこが巧い。「少女Aの肖像」のアヒルちゃんの奇行ぶり。「極東の白雪姫」のニーナの上辺からは想像も付かない極悪ぶり。そうしたキャラクターの造形は、パターンとして既視感がありながらもそう来たかと興味を惹かせる。これまでを超えていける作品。どこまでも高みを目指せる作品だ。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 軽妙な台詞のやり取りが素晴らしい。おもしろいライトノベルにおける要素のひとつに台詞のやり取り、会話があるとおもうのですが、それが抜群に良い作品です。実際、選考時に読んだとき、普通に笑って、普通に楽しんでしまいました。これまでの「このラノ大賞」最終選考でもストーリー展開がすごい、設定がすごいなどで感心することはありましたが、ただただ純粋に笑わされたのは初めてかもしれません。また、こういう会話劇型のライトノベルは多くありますが、それらと違い他作品のパロディを使うことなくおもしろさ成立させているのも評価できます。文章を読んでその情景を想像するのがおもしろい、そしてツボにハマると癖になる作品です。

吉原圭司(「コミックとらのあな」)

 ほぼ会話形式で進むストーリー。ですがキャラクターの絵が目の前にいきいきと浮かんできます。会話のみできちんとキャラを立たせ、そして笑いまでとってしまう。特に主人公とニーナとの絡みは本当に笑わせていただきました。極上のお笑いコントを見ているようで大賞として文句無しの作品です。主人公と女性陣との距離感も絶妙で、読みやすく、面白く、心地よい。三拍子そろったこの作品、ライトノベルが好きだ! と胸をはって言えるそこのあなた、読むしかないです!