第3回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『眠れないのは満月の所為だった』 壷幕辺ギャン太郎

 人を補食する人外・奇灰身の襲撃により崩壊した世界の物語。奇灰身を狩る箴奇甲戍隊、通称「戌」の生き残りである慎之介は、改造兵士の少女・イ号と共にひっそりと暮らしていた。しかし、街の自警団にイ号を捕らえられ、彼は言われるがまま、ある犯罪に荷担することになる。

評価コメント

 セリフや地の文、何気ない比喩表現からも荒涼とした物語世界の空気が伝わってきます。キャラクター造形も巧みで、とくに枯れ果てた人間の描写が光っていました。主人公とヒロインをはじめ、ほとんどの登場人物が性格的に問題があることも、世界観作りに一役買っています。そこまで舞台を荒ませておきながら、人々の不器用な夢や希望をストーリーの中核に絡ませてくるあたり、非常に演出がうまい。些細なことから希望があっさりと絶望に変わり、主人公といえどもいともたやすく窮地に追い込まれるようなハードなイベントが多く、ハラハラさせられっぱなしで、飽きる間もありませんでした。最初から最後まで、読み手をどっぷりと浸らせることができる作品です。
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