第3回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『僕達の曲がりくねった再生劇』 浜名弖

 制服を加工しただけの合成写真が中学の校内写真ミスコンテストで一位を取ってしまう……。光瀬真はそんな自分の容姿を嫌い、自分を娘として育てようとした家族と距離を置いていた。しかし、高校入学と同時になぜか演劇部に誘われてしまった彼は、あろうことか女装して舞台に立つことになる。

評価コメント

 丁寧に作りこまれた青春演劇小説です。作中人物の言葉を借りれば「人生への信用を失った」主人公たちが、かけがえのないものと出会い、演劇部の活動を通じて再生していく過程を過不足なく描いています。確かに彼の心からは何かが失われているのだ――と実感できる安定した語りといい、冒頭からラストまで飽きさせずに読ませる構成力といい、手馴れたもの。女装およびそれにまつわるコンプレックスというデリケートな題材の扱いが慎重であるのも素晴らしく、しかも書きぶりから思慮深さと誠実さが伝わってきます。書き手としての地力は非常に高い。
一覧に戻る