第3回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『校内放送が恋を語る話』 北尾一良

 高校一年生の藤原荘太は、ある日部室のスピーカーごしに女子から告白される。声だけの不思議な交際を始めた彼は、やがて、部屋の様子をうかがっていた井口安江を見て、これが彼女の仕組んだイタズラだと決めつけてしまう。怒った「声だけの少女」は、それ以来、現れなくなってしまい……。

評価コメント

 校内放送でのみコミュニケーションがとれる少女、というミステリアスな導入に一気に惹き付けられました。主人公と声のみの少女の、奇妙だが温かい交流をしっかり描きつつ、外部から横槍を入れて物語を自然な流れで展開させていく手腕もお見事。それ以降も、物語の結論に向けて充分なステップを踏めています。文章は非常にわかりやすく、無駄がない。脇役たちに目的やストーリーを用意した上で、余分なイベントを起こさず、中だるみなしでラストまでたどり着けている点も良いです。ストーリーの流れをきちんと把握している様子がうかがえます。読後感も爽やかで、ちょっと不思議な青春小説として完成しています。
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