第5回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『狼たちの恋しき月面』 滝川八雲

 西暦1288年、南仏。領主の次男リシャールの従者として馬上槍試合に随伴したマナセは、主の装備が実戦用であることに気づき、ひそかに訓練用の剣と入れ替える。そのことを咎められたマナセは、罰として食事を抜かれ、空腹のあまり密漁に手を出したところを何者かに発見されてしまった。追い詰められたマナセは見咎めた者を手にかけるが、それは意外な人物で……。

評価コメント

 舞台設定を活かした陰謀と殺人のプロットが見事でした。それを裏から支えるのは、中世ヨーロッパを描き切る豊富な知識。馬上槍試合や修道院生活の様子が具体的に掴めてしまいそうな言葉のチョイスから、日本的なファンタジーの入り混じった中世とは違う、歴史小説的な雰囲気が漂ってきます。白眉と言えるのは中盤の謎解きでしょうか。ラテン語の文法知識と中世の修道院的なものの考え方を理解していなければ、あの洒落た謎解きは思いつくことすらかなわないはず。また、そこから話を牽引してくれるイクリミアの冒険小説的なキャラ造詣は光るものがありました。
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