第3回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第3回『このラノ』大賞 / 大賞

『ロゥド・オブ・デュラハン』 紫藤ケイ(しどう・けい)

(応募時筆名:松崎)
作者プロフィール
1986年、東京都出身。2008年に早稲田大学文学部を卒業。主な趣味はTRPG(テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム)のプレイ・GM(マスタリング)・システム制作・リプレイ執筆。猫好き。

あらすじ

 領姫の不可解な死の真相を追う傭兵アルフォンスは、死体を操る死術師と対峙し窮地に陥ったところを、白銀の髪を持つ女に救われる。彼の者の名はリィゼロット。永き時を生き、死の運命を弄ぶ者たちを狩る、精霊デュラハンの一人。漆黒の鎧を身に纏い、純白の大剣を振るいながら、彼女は不自然に歪められた命を狩りつづける。茫洋としたまなざしに、深い悲しみをたたえながら――。第3回「このライトノベルがすごい!」大賞受賞、哀切と慟哭のダーク・ファンタジー。

受賞コメント

 このたびは、大賞にご選考いただき、ありがとうございます。
 幼い頃より、自分だけの物語を空想し、何かに書き留めたいという衝動に駆られ続け、それが、趣味としての小説の執筆や、テーブルトークRPGを遊ぶことへの欲求につながっておりました。
 今回の受賞を踏まえて、拙著を出版させていただくにあたり、多くの方々の目に留まるようになることに、恐々としつつも覚悟を決めております。
 今後も、この胸に宿りたる衝動を確かな物語へと変え、紡いでいけるよう、全力を尽くす所存です。
 最後になりましたが、今回の選考に携わっていただいたすべての方々に、感謝の辞を述べさせていただきます。まことに、ありがとうございました。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 ある意味、これまでの受賞作になかった作品。ファンタジーだから、ではなく、キャラクターに愛着をもちながらも物語のために冷静に、ときには冷徹に、過酷な状況に陥れる。そんなダーク・ファンタジーの真髄に気づかされました。デュラハンとなり贖罪のように死術師を倒すリィゼの姿はウェットに、死術師たちの狂気が渦巻く物語はクールに描かれています。しかし、そんな人間模様が盛り込まれた物語であるにもかかわらず、リィゼと死術師たちの戦いは、重戦車同士のぶつかり合いを想起させ重厚で金属的。ゾクゾクするほど血生臭く醜悪で、グッとくるほど悲しく優しい物語です。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 文句なしの大賞受賞作。かっちりとできあがった世界観をはじめ、総合的な完成度がとても高かった。リィゼの背負った情念をはじめ、物語の持つ負の部分が巧みな文章力によって紡ぎだされ、読む人間に強く訴えかける。金や栄達といった理由ではなく、好きな人を待つため、あるいは主君の命を果たし続けるために死術に手を出す哀しさがよく書けている。ストーリーとしても、変化があり読者を飽きさせない。人物の「死」をショッキングに描写しているのも、物語のアクセントとなっていた。ファンタジーというある種王道の分野だが、上で挙げた様々な要素が上手いためかまったく古くささを感じさせなかった。

タニグチリウイチ(書評家)

 少年が、死者を導く精霊デュラハンとしての権能を持った女や、死者の声を聞き集める巫女の少女と出会い、共に旅をしていく展開の中に、ひとつひとつ問題を解決し、それでもまだ続く戦いの果て。本当の敵が姿を現し、最後の戦いへと向かう連なりが、目を引っ張ってページを繰らせる。冒頭から、少年が愛しく思っていた姫が、残酷極まりない目にあい、その後も行く先々で多くの人が死んでいく展開ながら、陰鬱で陰惨な雰囲気にならないのは、主人公をはじめキャラクターたちに、前向きな意志の力があるからだろう。構成よくキャラもよし。『このライトノベルがすごい!』大賞が満を持して送り出すファンタジーの意欲作だ。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 最終選考にファンタジー作品が2作も入選していたのがまずうれしい。そして、待ちに待ったファンタジー作品での大賞でさらに嬉しい。しかもこちらの期待した以上の面白さでした。特にメインの設定となる精霊の設定は良く、人であることを逸脱すると精霊に昇華する、その過程にはゾッとするものがあってダークファンタジーの雰囲気がでていました。主人公の物語から始まり、全体としてはデュラハンの物語となっている構成も良いです。今どきのライトノベルに飽きてる人、かつてライトノベルを読んでいた人にはぜひ読んでほしい作品です。

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 ストーリー、キャラクター、文章構成、全ての面においてレベルが高いダークファンタジー作品でした。最後まで物語を読み切る事が出来、昨今の流行している学園ファンタジーとは全く違う感動と満足感を読み手に与えてくれる一作となっています。また、老若男女関係なく楽しめる作品ですので、是非読んで下さい!