第1回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第1回『このラノ』大賞 / 大賞

『ランジーン×コード』大泉 貴(おおいずみ・たかし)

ランジーン×コード (応募時タイトル&筆名:「コトモノオト」泉 貴大)
作者プロフィール
FFの第一作が世に出る一週間前、東京の某所で生を受け、中学・高校は都内の某私立男子高、大学はとある工業大の電気工学科と、色気とは無縁の環境で育った22歳。現在は中央線沿いにある大学院の研究室にて、画像情報処理のプログラムと日々格闘中。

あらすじ

コトモノ――遺言詞によって脳が変質し、通常の人間とは異なる形で世界を認識するようになった者たち。27年前にその存在が公になって以降、社会は人間とコトモノとの共存を模索し続けていた。
そして現在――。全国各地でコトモノたちが立て続けに襲われるという事件が発生。武藤吾朗(ロゴ)は、事件の中で犯人の正体を知る。その正体とは、6年前に別れたはずの幼なじみ・真木成美だった――。

受賞コメント

このたび、第1回『このライトノベルがすごい!』大賞に選んでいただき恐縮しております。この作品は、なかなか形にできないでいた構想を、自分の中で決着をつけるという意味で、無理やり書き上げて応募したという経緯があるのですが、それがこのような望外な結果へとつながったことに、「事実は小説より奇なり」という言葉の意味を実感している次第です。ライトノベルというジャンルの最大の魅力は、ごちゃごちゃ難しいことは考えず、ただ「面白さ」のみを突き詰める「頭の悪さ」にあるのだと思います。自分もそんな「頭の悪い」小説書きの一人として、『このライトノベルがすごい!』大賞の名に恥じぬ、面白い作品を書き続けていく覚悟でおりますので、この威勢ばかりいい馬鹿な若造を生あたたかい目で見守っていただければ幸いでございます。最後に、選考に携わった方々、自分を支えてくれた家族や友人、先生方に深い感謝を捧げます。本当に、ありがとうございました。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
丸山晋司(「コミックとらのあな」)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

映画を見ているような錯覚に陥る、視覚に訴えかけてくるような鮮烈なシーンが素晴らしい! 怪物とのカーチェイスや反重力バトルなど、どの場面もとにかくかっこいい。そんな名シーンが立て続けに展開していきます。物語の肝となるコトモノというアイデアがまたすごい。様々なアイデアを取り込め、しかも人間の心理を的確に表現できる、抜群の設定です。さらにキャラクターたちの動機・感情をきっちりと盛り込んでいるのも高評価。コトモノというアイデアに、テーマである少年少女の葛藤がしっかりとマッチしており、読み応えのある作品です。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

ライトノベルでは定番ともいえる異能バトルだが、コトモノという能力設定がきちんとストーリーに連動していてうまく使われていた。作中では絵が重要な要素になっていることもあってか、場面によってはなにがどうなっているのか少々わかりづらい場合もあったのでその辺の修正が課題かなとは感じたが、異能力バトルのシーンは躍動感があり、非常に見栄えのする仕上がりになっている。主人公達の潔癖で真っ直ぐな行動に、若者らしい純真さが見えて好感を覚える。

タニグチリウイチ(書評家)

異能バトルであることに新味は覚えづらい。普遍の設定としてその上でどんな能力が現れ、どんな戦いの関係が作り上げられるのかが勝負の分かれ目となるが、大泉貴の『コトモノオト』(刊行時タイトル:『ランジーン×コード』)は、超常的というより強めの願望が発展して生まれた異能の設定に確かさがあり、能力にもバリエーションがあって楽しませてくれる。主人公の少年を支える「赤の女王」なる存在は、最初は凛々しさを見せ後に意外性をもって現れ驚きをもたらす。ライトノベルらしさを最も持ち、それでいて強さも備えた物語として、王道を選ぶと決めた大賞に相応しいと認められた。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

今回いちばんライトノベルらしい作品でした。
異能力バトルものというのはライトノベルでよくあるジャンルですが、その中で特徴を出していくのは難しい。でも、世界に対する認識が変わるが、実際には変化はしてないコトモノの設定はおもしろく作品の売りになると思います。ただのバトルの道具として使うだけでなく、同じコトモノ同士で集団をつくったりするなど、コトモノたちの生き方があるのがよいです。ただ、コトモノ視点だと何でもできるように見えるなど、設定絡みでの描写がややこしいシーンがあるのでそこが整理されると読みやすくなります。

丸山晋司(「コミックとらのあな」)

『コトモノオト』はストーリーが一本調子にならず非常にテンポ良く進み、読み応えがあった作品でした。また、<遺言詞(いげんし)>や<コトモノ>等オリジナリティあふれる特殊能力の設定は非常に新鮮であり、<コトモノート>の存在は次の「コトモノの物語」は一体どのような物があるのだろうという期待感を持たせられました。登場人物もかなり多彩で各キャラクターに感情移入しやすく、どのキャラクターの視点で読んでも楽しめます。また、登場人物が多いのですが、キャラクター同士の関係は非常にシンプルに分かりやすく描かれていたので読み易かったです。オーソドックスな展開で突飛な展開はありませんが「謎かけ」も多く、楽しめました。「続編」にも期待しています。