第1回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第1回『このラノ』大賞 / 優秀賞

『暴走少女と妄想少年』木野裕喜(きの・ゆうき)

暴走少女と妄想少年
作者プロフィール
奈良で発生し、奈良で培養され、おそらくは奈良で死滅するであろう生粋の奈良県民。活字が苦手でマンガしか読んでこなかったはずが、ふとしたことがきっかけで物書きに手を出し、書いたものを読んでもらえる快感にドップリはまってしまう。
それからは執筆作業とアルバイトに明け暮れ、のらりくらりとした日々を自宅周辺で過ごす地域密着型ひきこもり。座右の銘は、『明日できることを今日するな』

あらすじ

春。高校の入学式を迎えた沖田善一は、門の上から飛び降りてきた少女にいきなり鎖骨を折られてしまう。少女の名前は明華武瑠。才色兼備だが性格に激しく難アリの暴走少女。彼女の友達に(無理やり)なったことで、善一は彼女のさらなる友達作りの手伝いをさせられることに……。「まあでも、手伝ってるうちにあんなことやこんなことになったりして。うへへ」「……キショいぞ善一」暴走少女と妄想少年が贈る、青春ラブコメディ!

受賞コメント

はじめまして、木野裕喜です。この度『このラノ』大賞で優秀賞を受賞させていただき、何よりもまずはありがとうございますと言わせてください。この作品を取り上げてくださった編集部の方々、今でも感謝の気持ちで溢れています。そしてここに至るまで、いつも親身になって力を貸してくれた友人たち、本当に感謝してもしきれません。私一人では絶対にこの結果にはつながっていませんでした。正直に言うと、私は文章を書くことをそれほど好む人間ではありません。ですが、書いたものを読んでもらえた時の喜びようは凄まじいものがあります。作品を読んでもらうためならいくらでも努力します。読者に楽しんでもらえるのならいくらでも書き続けます。執筆の技術とともに、読んでもらえる幸せを教えてくださった皆様、さらに多くの人に読んでもらえる機会を与えてくださった編集部の方々、本当にありがとうございます! 堅苦しい挨拶で申し訳ありませんが、これからどうぞ(末永く)よろしくお願いいたします。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
丸山晋司(「コミックとらのあな」)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

最近のライトノベルで重要な要素となっている、会話の面白さを存分に楽しめる作品です。ボーンクラッシャーのヒロイン、妄想力逞しい主人公、妹激ラブで美女的なヒロインのお兄さんなどなどエキセントリックなキャラクターたちが繰り広げるボケツッコミは、まさに暴走と妄想の世界。ストーリーは多少薄味ですが、このキャラクターたちの世界に入り込めるだけで一点突破、技あり一本。ライトノベル的にキャラクターが立つっていうのはなかなか難しいこと。特にキャラクター同士の距離感はストーリーにも関わる重要事項。この作品はそのキャラクターがとにかく最高です。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

最終選考作品全5作の中で、もっともライトノベルらしいライトノベル。ボーイ・ミーツ・ガールとしてはまさに王道展開であり、意外性はほぼないに等しいのだが、なんといっても会話のテンポが抜群によい。伝奇要素の全くないラブコメだけに会話は生命線と言えるが、作品からは天性のセンスを感じた。また主人公の妄想が随所で盛り上がるのだが、発想がいかにも高校生っぽいところにまたニヤリとさせられる。ヒロインのパワーがやや薄いかなと感じたが、総じてキャラクターがしっかり立っている。特にメイン4人揃ったときが生き生きしている。

タニグチリウイチ(書評家)

個性的なキャラクターたちによって繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガールの物語が、木野裕喜の『暴走少女と妄想少年』。かの大人気ライトノベルとモロ被りとなる強気なヒロインと、彼女になぜか関心をもたれる、どこか投げやりな少年という関係性ながらも、文章力がありキャラクターの強さがあり、いじめのような切実な問題への答えなども示されてあって、多くの共感を呼びそうだ。王道であっても既視感にまみれていても、面白ければ勝てる一例として今後の参考にしてほしい。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

ストレートなラブコメらしく、キャラクター同士の掛け合いはおもしろく、テンポ良く進むが、前半が長い。だが、メインとなるキャラクター達がそろうと、さらにおもしろく動き出し、もっと読んでいたくなる。
ラブコメは好きになりそうだ、あるいは好きだと認識してからがおもしろいところだと思うので、後半もう少し話をふくらませた方が良かった。終わり方にあっさりした感じがあり残念。全編通してヒロインがただの暴力者になりがちなので、もうちょっと可愛い感じがあればよかった。

丸山晋司(「コミックとらのあな」)

読み始めた時は「良くも悪くも」王道のラブコメかと思いましたが、一番印象に残ったのは「美人だが口も悪いし胸もない」ヒロインの「武瑠」ではなく、主人公である沖田の女の子に対する「妄想癖」という、実は異色作でした。あの妄想は世のラノベ読者(主に学生の皆様)の共感を得るのではないでしょうか。また、沖田と武瑠の関係も、沖田と武瑠が友達から進展していくさまが非常にシンプルに描かれていて好感が持てるものでした。唯一残念だったのは味のあるサブキャラクターの登場頻度。続編があるのであれば(気が早いでしょうか)、彼らの活躍にも期待したいところです。