第2回『このラノ』大賞 1次選考通過作品詳細

『春待ち木陰』 キオロシ・ホウネン

 クラスメイトの水谷が突然授業中に教師を殺害する。主人公・春生にその理由は分からないが、そのときを境に数名の人物が不可解な行動を始めたことに気づく。水谷はその動機について口をつぐんいるが、春生はどうしても気になってその理由を探りだした……。

評価コメント

 1つのミステリーとして謎が提示され、それに頭を悩ませる主人公の描写がよかったです。水谷だけではなく、周囲の世界が一斉に不可解な「サイン」を示していることに、少しずつ気づいて混乱し、自らにも異常が起こっていくうちに徐々に予想外の「真相」にたどり着いていく…というミステリー的手腕に驚かされました。主人公の心理と同調するような鍵括弧や三点リーダーの多い文体も作品内容とマッチしており、混乱の中に読者を巻き込む力があります。中盤で真相がわかってからも、飽きさせない色々な「パターン」を見せてくれたことも高く評価します。

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