第2回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第2回『このラノ』大賞 / 栗山千明賞

『美少女を嫌いなこれだけの理由』遠藤 浅蜊(えんどう・あさり)

(応募時タイトル:「B級少女」)

美少女を嫌いなこれだけの理由
作者プロフィール
きっとこれからも新潟県に在住し続ける。唯一の海外渡航経験は佐渡島。だらだらと生きてきたが、これからはだらだらと生きないようにしよう。と思い立つことを何度か繰り返してここまできた。きっとこれからも繰り返していくのだろう。

あらすじ

完璧な外見と不思議な能力を持つ種族「美少女」が、人間と共存している世界。素性こそちょっと訳アリだが、基本はごくごく普通の男子高校生である亜麻野雄介は、ある日唐突にふたりの「美少女」の訪問を受ける。熱心な説得を受け、また報酬につられて、田舎町の「簡易美少女局」のサポートマネージャーに就任ししてしまった雄介。可愛くてミステリアス、身勝手で能天気、そんな老若男女の「美少女」たちに振り回される日々が始まった……!

受賞コメント

 はじめまして。遠藤浅蜊と申します。晴れがましい舞台で素晴らしい賞をいただきました。皆様どうもありがとうございます。子供の頃から怒られるばかり、褒められることなど良い歯の賞状をもらう時くらいでしたが、まさかこの年齢になって褒められる立場になろうとは望外の幸せです。こせこせとこさえたお話を評価していただいただけでなく、老母の差し歯を新調することも、崩れた塀の修繕をすることもできるようになりました。重ね重ねありがとうございます。
 今までの私は、利休の故事まで持ち出して「花は一輪あればいい。複数の美少女を出すなど無粋」などと上から目線で言たれるような鼻持ちならない嫌なやつでした。でもこれからは違います。美少女のおかげで賞を頂戴することができました。ありがとう美少女。もう足を向けて寝たりしないよ。これから先も精進を重ね、ネチネチと嫌な擬音を使って物語を作ります。なにとぞよろしくお願いします。できることなら、末永く。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 姿形は全くの美少女だが、人間とは種を異にする「美少女」という設定が面白い。中年のオヤジもお年寄りも性別年齢関係なくみんな「美少女」なので混乱しきりですが、「美少女」いっぱいなのはやはり嬉しいもの。その設定を物語に深く絡ませて、何気ない日常として描写してあるのはすごいです。軽快で掴みどころのない文章は癖が強くありますが、ゆえに慣れてしまえばはまってしまいます。そしてラストのバトルが熱い!  短いながらググっと、グイグイと、そしてガツンと格好いい。こんな戦いはちょっと読んだことがありません。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 実はこの作品は読んだときにどう評価するか非常に悩んだ。あらすじの段階で明らかに最終選考時の他の4作品とは異質であり、良くも悪くも突出していたのは間違いない。
 まず目につくのは独創的な美少女の解釈。特に年齢性別を超越した、種族としての「美少女」というのは予想外で、ラノベのヒロイン描写におけるお約束である「美少女」を揶揄したかのような設定には思わずうーんと唸らされた。キャラは全体として老成してる印象があるが、実際に中身は見かけよりもずっと年なわけで不自然ではなく、腰を落ち着けて安心して読める感覚。またバトルアクション部分は盛り上げ方も上手く、迫力のある描写に仕上がっている。
 選考の際は設定の穴が目についたために、あれこれと指摘する形になったが、気がついてみれば相当に隅から隅まで読み込んでいたわけで、まんまと作品世界に惹きつけられ、乗せられてしまったということだろう。そのあたりの穴を埋めていけば、さらにもう一段階、化けるのではないか。

タニグチリウイチ(書評家)

 人類とは違った存在としての“美少女”という設定がとにかく目新しい。そして、ゴージャスだったり清楚だったりグラマーだったりロリっ子だったりと、多彩な“美少女”たちの中身が実は……といった展開を食らった時、それでも見た目が美少女だからと納得できるか、まったくわけがわからないよと戸惑うか。その分水嶺を乗り越えれば、“美少女”たちが織りなすドタバタとした日常も、“美少女”がいる世界も、楽しくておかしいものに見えてくる。ビジュアル的にライトノベルで、主題的に風刺小説で、展開的に青春エンターテインメント。よく噛んで味わおう。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 最初に読んだ感想を素直にいってしまうと読みにくいです。説明が少ないので全体的に解りにくいです(この辺りは改稿で修正されると思いますが)。ですが、設定だけがとても変でおもしろいです。見た目が美少女なのに中身がおっさん……なんでこんなこと考えついて、そのうえ小説にしてしまうのか?
 読みにくさ、解りにくさなんてものは文章書いていけばそのうち作者が成長して解決する問題ですが、発想力、しかもこの特異性はこの著者の武器になるでしょう。この発想力の将来性に期待したいです。

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 最初の1ページ目から目を疑うような「美少女」という設定が記載があり、今回の5作品の中で1番個性的な作品でした。各キャラ毎に凝った設定もあり、奥が深い作品でしたが、「美少女」設定に関する記載がもう少しあっても良かったかと。例えば、「美少女」の性格特性にはどのような意味合いがあるのか、また、過去に人間と美少女の間に共存するようになった物語があるとより「美少女」という種族が見えてくるような気がします。改稿で、この辺がどうなっているのか、楽しみです。