第2回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第2回『このラノ』大賞 / 優秀賞

『僕と姉妹と幽霊(カノジョ)の約束(ルール)』 喜多 南(きた・みなみ)

(応募時タイトル:『恋色ゴースト』)

僕と姉妹と幽霊(カノジョ)の約束(ルール)
作者プロフィール
愛知県在住の主婦。見る、聴く、読む、書く、と常に創作物に触れていたい人。毎日子育てと家事にバタバタと追われながら、執筆生活を楽しんでいます。幼稚園の園児たちの前に立って発表するだけで、吐き気を催すほどの小心者。どうにかしてください。

あらすじ

 先祖代々霊感体質の高校生・結城クロ。ある日の放課後、彼は教室で、クラスメートだった長谷川紫音の幽霊と出会う。紫音を成仏させるため、彼女が心残りに思っていることを解決しようと申し出るクロ。だが、紫音はその提案を一蹴し、命令口調で「私を生き返らせなさい」と言い放った。マイペースな紫音の行動は、クロやクロの3人の姉妹、他の幽霊たちも巻き込み、様々な事件を引き起こす。しかし、やがて紫音の記憶と存在が薄れ始めて……。

受賞コメント

 このたびは『このライトノベルがすごい!』大賞で、受賞作として選んで頂き、ありがとうございます。幼少の頃から本が大好きで、読書ばかりしていました。その中でライトノベルという世界に出会ったのは、三年ほど前になります。
 「もっと早く出会いたかった……!」という気持ちです。
 年甲斐もなくラノベの世界に魅せられてしまった私は、書く方面にも目覚めてしまい、それから公募生活がはじまりました。何度も応募→落選、応募→落選を繰り返してきました。諦めずに何度も挑戦を続ければ、いつかは夢が叶うと教えられた気がします。
 選考員の皆様、編集部の皆様、支えてくれた周囲の方々、大切な家族に、心から感謝します。小説を書くのは楽しいです! 楽しすぎて、やめられそうにありません! これからも読んでくださる方が共感できるような、青春モノを書いていきたいです。まだまだ勉強中の未熟な私ですが、読みまくって書きまくっていく中で、少しずつ成長していきたいです。ようやくスタート地点に立てました。本当に、ありがとうございます!

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 女兄弟に溺愛されながら(だからこそ?)女性恐怖症という主人公などキャラクターの設定の素敵さや、いくつかのエピソードを重ねることで新しい局面をむかえる構成の面白さなど、小説としてのよさはたくさんあります。しかしこの作品の魅力は切なさ。幽霊となってしまった想い人とすごす悲しさが、作品全体にあふれ出して切なくなります。未練を残しているため成仏できずに現世に留まりつづける幽霊たち。未来なき彼らが想いをとげたとき、真相は明らかになり、切ないなかにも優しさが感じられ胸が苦しくなりました。雨の日にじっくりと浸りながら読みたい作品です。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 幽霊が見える設定、女性恐怖症で女性に触れられない設定、いずれも古くからよく使われてきた設定だけに目新しさには欠けるが、ヒロインの紫苑がもてるはずのないボールを投げようとして、ひたすらがんばっている光景を筆頭に、シリアスな青臭い青春劇をやっているシーンは絵になっていた。特に姉である緋色は効果的に配置できている。また物語展開の仕掛けにはかなりのインパクトがあり、完全に騙された。これについては多くの読者をあっと言わせることができるだろう。ただ、紫苑が幽霊になった顛末については大半の読者の共感を得るのは難しいと思われるので改善が必要。改稿でどう修正されるかに期待したい。

タニグチリウイチ(書評家)

 霊が見える少年と、それから霊に対して異なるアプローチができる3姉妹という、4人のきょうだいに強い存在感がある作品。自分たちが持つ能力を決して誇らず、過去に受けた心の痛みを理由に、ひけらかすこともしないで生きている真摯な姿勢が、記号的になりやすいキャラクターに深みを与えている。墜落死した少女や、ピアノにこだわる少年の迷いをほどくエピソードを織り交ぜながら、大きな癒しを示して終わる展開は、安心して読めて、心に少しばかりの優しさをもたらしてくれるだろう。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 全体的にある淡くせつない雰囲気が最高です。
 流行の作品タイプでもありませんし、発売したら爆発的に人気がでるタイプだとはいいません。ただ、これは男女問わず確実にファンを掴む、そういうタイプの作品だと思います。書いているのが女性だけあって恋愛要素の表現の仕方が良いです。多分男にはできないかと。最後の方のシーンでギュッと手を握って引き止めるとか大好きです。

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 正統派の学園青春を題材としており、男女問わず多くの皆様に読んでもらえる作品になっていました。学生時代の代わり映えが無いと思っていた日常から、ちょっとした事でそれが劇的に変化し、心が激しく揺れ動き、思い悩む。そんな心理描写が非常に良く表現されており、読んだ後に心に残るものがありました。忙しい日常の中で、一息つきたい時や癒されたい時に読むと良いですね。