第3回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第3回『このラノ』大賞 / 栗山千明賞

『擬態少女は夢を見る』 島津緒繰

作者プロフィール
昭和五十九年生まれ。双子座。血液型はO型。東京都在住。自己紹介とか自己アピールをしなさいと要求されたとき、何も言うことが見つからなくて一生懸命人生を振り返るけどやっぱり何もなくて、無限の涙が溢れてきます。

あらすじ

 高校新一年生の火狩隆史(ひかり・たかし)は人付き合いが苦手だが、絵は上手い。将来はマンガ家になりたいと思っていて時々イラストなどを描いている。ある日、ノートにエッチなイラストを描いているところを地味な見た目のクラスメイトの薄氷霰(うすらい・あられ)に目撃され、隆史の日常に変化が訪れる。「いいおしりだね」隆史の描いていた裸の女の子についてそう評した霰は「その趣味を人にバラされたくなければ」と脅迫し、隆史はアラレと一緒にアニメ研を作る事になってしまったのだった。

受賞コメント

 この度は、第3回『このライトノベルがすごい!』大賞(栗山千明賞)に選んでいただき、本当にありがとうございました。
下読みの皆様、編集部の皆様、審査員の皆様、そして拙作を評価していただいたすべての皆様に厚くお礼を申し上げたいと思います。未熟な身ではありますが、賞の名前に恥じないように何事も慢心することなく向上心を持って作品制作に臨んでいきたいです。プロとしての挑戦権を与えられて嬉しい反面、これからのことを考えると不安や重圧で押し潰されそうになってしまいます。それでも「読者様の喜びは作者の喜びである」という言葉を胸に、常に目標に向かって邁進することを忘れないようにしたいです。厳しい世界ではあると思いますが、きっと楽しみにしてくださる読者様がいることを信じて、前向きに励んでいこうと思います。選挙演説みたいになってしまい恐縮です。どうもありがとうございました。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 待ってました学園部活もの! しかもアニメーション制作という、身近でありながらなかなか手を出せない特殊な題材。この題材の良さに加え、キャラクターのエキセントリックさが半端じゃありません。もじゃもじゃカツラに眼鏡で素顔を隠す超美少女の薄氷(お願いも命令口調)や、メカには強いがキャラには弱い茂庭、一見か弱そうだが言葉の端々に悪意がこもる高波など、ドン引きするほどの個性の強さ。アニメ制作の面白さ、アニメに対する情熱、不器用なふれあい、部活ものの楽しみ満載です。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 アニメの制作過程は知っているようで知らないものなので、読んでいると興味が沸いてくる。興味のある読者も多いと思われ、素材として非常に上手い。また、ストーリー展開は先が読めそうで読めず、とある勝負でのどんでん返しにはおおーっとうならせるものがあった。惜しむらくは、ラストの物語の終わらせ方がやや強引だったので、この辺が投稿時からどのように化けるのか乞うご期待。

タニグチリウイチ(書評家)

 アニメを作りたい少女がいて、アニメーション研究部を設立して部長を名乗って、アニメを作れそうな人材を集めてアニメを作ろうとする。その過程で立ちふさがる生徒会長で姉で絵の天才という“壁”を乗り越えていくというストーリーは、流れも良く、乗り越え方の工夫もあって楽しめる。メンバーを引き抜くために、美術部の部長を倒したやり方や、漫研部長でもある姉を負かす方法にはなるほどと感心。口調が妙だけれどもメカ作画には長けた少女、メカは描けないがキャラは描ける少女、そして凡人だけれど絵は描ける“僕”と、それぞれに何かを持ち、何かに欠けたところを持ったキャラの誰かに、自分を重ねて読んで行けそう。アニメが作りたくなって……は流石に来ないけど。大変そうで。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 現場・職業ものといいますか、ライトノベルにはそういった作品が時折ありますが、アニメ制作を取り扱ったライトノベルは初めて読みました。なんでも描ける部長以外はメカしか描けない、かわいいものしか描けないなど残念すぎる部員の奮闘ぶりはおもしろい。終盤は末期の制作現場を地で行ってしまっているのが……このギスギスした感じは読んでいて重かったが良くも悪くもアニメ制作現場って感じでした。ただ、アニメ制作の機材の購入資金などにリアリティを感じなかったのが残念。

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 アニメ制作を題材としたライトノベルは過去に読んだ記憶がなく、非常に新鮮な感じでした。また、アニメの技法や使用しているツール等が分かり易く説明されており、読み手にとっても取っ付き難いという事が無く良かったと思います。登場する各キャラクターにも味があり、特にヒロイン姉妹は素晴らしく屈折した性格をしており、掛け合いも楽しめる作品です。