第3回『このラノ』大賞 受賞作品詳細

第3回『このラノ』大賞 / 優秀賞

『はんぶんのイチ』 飛山裕一

作者プロフィール
本名。福島県出身。一年間の浪人が、生来の浪人生気質を目覚めさせるきっかけとなる。大学は中退。小劇場では売れず。いつまでたっても道の開けない人生に、「この現実は、浪人しながら見ている夢なのだろうか」と思う。いまも思う。日々是浪人。

あらすじ

 ――これは、デブが金網に挟まる物語だ。高校入学以来、すっかり無気力になった平原不破人の前に現れた美少女・かがり。自らを悪魔と称する彼女は、人生に満足してもらうため、不破人の望みを叶えようという。焚き火、力士、悪魔の革新、合コン、女体化、そして友人の命の危機。人と悪魔が化かし合う、そう、これは、デブが金網に挟まる物語――。あの歴史的名作を下敷きに贈る、第3回『このライトノベルがすごい!』大賞優秀賞受賞作。

受賞コメント

 ようやく、末席だったら結婚式にも出席していいくらいになったのかもしれない……いやいやまだまだこれから、胸を張って出席出来るようにならなくては。と、思っているところでございます。
 ありがとうございます。これまで関わって頂いた全ての方々に、厚く御礼を申し上げます。まだ関わっていない皆様にも、前もって御礼を述べさせて頂きたいと思います。重ねまして、本当にありがとうございます。
 初めての経験で、初めての感慨に包まれております。初打席で初ヒットを打った。そんな気持ちに近い気がします。一塁を踏みながらも足が震えております。牽制で殺されてしまいそうです。
 出塁して思い知る、二塁の遠さ。ホームまでの長い道のり。運良く帰れたとしても、次の打席もあればペナントレースは始まったばかり。
 先は長いですねぇ。
 短めに持ったバットでコツコツ当てていきたいと思っております。初小説、ぜひともご覧くださいませ。

最終選考委員選評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら


勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 なんでしょう、このつかみどころのない不思議な面白さは?やる気を失くした主人公平原と美少女姿の悪魔かがりの、淡々としたシニカルな日常のやりとりだけでも妙に面白い。加えて、突然、相撲取り登場というシュールな展開。その唐突さの驚きたるや、平原以上に読者が悪魔の罠にかかっているかのよう。さらにストーリーは予想外の方向にすすみ、コスメ上手の相撲取りの手によってクラス全員美少女化、兵法かぶれの女の子と相撲取りと女装した主人公が合コン。いったいこの面白さを伝えるにはどうしたらいいんだ!?

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 作品の要とも言える部分、悪魔であるかがりの行動の不可解さ、いったい誰の得になるように動いているのかわからず、場を好きなように引っ掻き回す様はすごく悪魔らしさが出ていてすばらしかった。また物語が本格的に起動して、特にそん子を守るために一致団結して行動をはじめるくだりからはかなり盛り上がった。話としての疾走感もあり、各キャラクターもそれぞれとても魅力的に書かれている。締めもうまく、最後の最後まで悪魔かがりの存在感を強く印象づけられる物語だった。


タニグチリウイチ(書評家)

 イラストどうすんの? なんて思った異色作。淡々として飄々とした少年と、美少女の悪魔とのやりとりが妙におかしく笑っていたら、その悪魔が“お約束”どおりに学校に転入して来ると、なぜか元の美少女の姿ではなく、とんでもなくグラマラスになっていたから主人公ならずとも驚いた。そんな展開の上に、もうひとり超グラマラスな奴が加わって、かつてないほど高まる熱量に焼かれ、重量に押し潰されそうになるけれど、同じ学校に通う女生徒の危機に少年が挑み、解決していくという筋があるからご安心。読み終えてスッキリの青春ストーリーを楽しもう。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 悪魔がでてくるライトノベルは数あれど、悪魔は魂を取るものではなく愛でるものというスタンスはおもしろい。物語の展開を主人公が困る方に困る方にと動かしていく悪魔の行動は、この『愛でる』という言葉にピッタリです。文章は一人称と三人称が入り混じり主人公が無気力さゆえに自分の行動さえも俯瞰して見ているゆえに、演出上こうなのかなと考えたのだが、そうでも無いので全体的に違和感を感じた。いっそ、そういう演出でも良かったのでは?

川崎拓己(「コミックとらのあな千葉店」店長)

 悪魔が登場する作品であったので、ドタバタコメディかと思いきや独特な雰囲気を醸し出す、良い意味で変わった作品になっていました。平原(主人公)とかがり(悪魔)の関係も利害関係の一致というラノベとしては、なかなか腹黒いなぁと思いつつ、読める作品です。ただ、個人的に一番印象に残ったのは、作者の飛山さんの相撲取りへの愛でしょうか。