第1回『このライトノベルがすごい!』大賞 最終選考結果

第1回『このライトノベルがすごい!』大賞決定

第1回『このラノ』大賞

大賞:『ランジーン×コード』大泉 貴(おおいずみ・たかし)

(応募時タイトル&筆名:「コトモノオト」泉 貴大)
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金賞:『僕たちは、監視されている』里田 和登(さとだ・かずと)

(応募時タイトル&筆名:「僕たちは、監視されている」里野修平)
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栗山千明賞:『ファンダ・メンダ・マウス』大間 九郎(おおま・くろう)

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特別賞:『伝説兄妹!』 おかもと(仮)

(応募時タイトル:『伝説兄妹』)
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優秀賞:『暴走少女と妄想少年』 木野裕喜

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※銀賞3本の名称が栗山千明賞、特別賞、優秀賞に変更になりました。

総評

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)
極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)
タニグチリウイチ(書評家)
工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)
丸山晋司(「コミックとらのあな」)
編集部より
特別選考委員栗山千明さん選評はこちら

勝木弘喜(ライトノベル・フェスティバル初代実行委員長)

 新人賞はただ面白い作品を選べば良いというものではなく、その賞がどういった読者にどんな想いを伝えたいかに大きく左右されます。今回選ばれた5作品は、『このラノ』大賞の「読者に共感をもってむかえられる作品」「ライトノベルの面白さが思い切り味わえる作品」「オリジナリティがあり期待感がもてる作品」が欲しい、読者に読んでもらいたいという強い想いが引き寄せたのではないでしょうか。応募作の中には、受賞作より小説としての完成度が高いもの、あるいはそつのないものがあったかもしれません。しかし、受賞作こそが「このラノ」大賞にふさわしい作品であると断言できます。
 以上をふまえたうえで今後応募してくる方に伝えておきたいのは、妥協なしで自分の書きたいものを思い切り楽しんで書いてもらいたいということです。もちろん、受賞作を参考にするのは悪いことではありません。しかし、安易なモノマネでは読むものの心を掴むことはできません。ストーリーやキャラクター、文体といった技術は作品の魅力の一部でしかありません。自分の書きたいことをしっかり見極め、より強く、よりライトノベルらしく書き通していただければと思います。

極楽トンボ(評論家、HP「まいじゃー推進委員会!」管理人)

 選考委員などというものを務めるのは、はじめての経験であり非常に緊張したのだが、いざ送られてきた作品を見せてもらうとさすがに最後まで残るのは優秀な作品ばかりで、あっという間に物語に夢中になった。『このラノ』大賞第1回ということで、作品傾向が後々まで影響することもあるだろうが、最終選考作品はなかなかバラエティに富んだラインナップになっていたのではないかと思う。
 王道中の王道を突っ走るラブコメ『暴走少女と妄想少年』にはじまり、『僕たちは、監視されている』(刊行時タイトル:『僕たちは監視されている』)のような思春期の少年少女の細やかな感情を描きつつ仕掛けが施されたもの、そして選考委員全員を驚愕させた『ファンダ・メンダ・マウス』のような問題作まであり、これなら次回以降もひとつの傾向に偏ることもなくいろんな可能性を見せてもらえるのではないかという期待が持てた。
 なお、私が次回の作品に求めるのは「新しい感性」に尽きる。文章力などは二の次で構わないので、その作者にしか書けない独自の感性が最大限に生かされた物語を期待している。そのためにも普段からいろんな分野の知識を幅広く吸収して、感性に磨きをかけてもらいたい。

タニグチリウイチ(書評家)

 「すごい」とはどういうことか。そこに悩んだ。迷った。
 キャラクターからテーマからストーリーから、すべてが完璧に近いできばえで、そのまま売れ線として突っ走っていきそうな作品を「すごい」と讃えるべきか。テーマもキャラクターも設定も、ライトノベルのセオリーを外れた破天荒な作品に「すごい」と驚くべきなのか。
 後発なら冒険すべきという観点から後者をとって、ライトノベルのセオリーを外すどころか意識すらしていない『ファンダ・メンダ・マウス』に第1回の大賞を与えたい気もあった。毀誉褒貶を問わずどう受け入れられるのかを試したかった。
 けれども、1回目であらゆる制約を外してしまっては、ライトノベルの賞として立ち上がった意味が薄れる。まずは王道。異能バトルで少年が主役で絡んでくる少女がいて、その上で設定やビジョンに新しさもある『コトモノオト』(刊行時タイトル:『ランジーン×コード』)が初戴冠の栄誉を得て、キャラクターと主題にイマドキさがあった『僕たちは、監視されている』が次席となった。
 第2回にこの傾向が通じるかは、保証の限りではない。王道は大勢に好まれているからこそ王道なのであって、破天荒さに劣るものでは決してない。異能バトルに学園ミステリーにラブコメディに、今回は最終選考に残らなかった異世界ファンタジー。過去にどれだけ書かれて来たジャンルであろうと、面白ければ支持される。
 一方で、セオリー無視の破天荒な作品でも、極められたものならライトノベルかどうかを問わず確実に読む人の心をとらえる。それさえあれば、ライトノベルが意識する読者層なりキャラクター性を加味することによって、賞の名から逸脱しない作品になり得る。あるいはライトノベルという言葉に、新たな認識を加え得る。
 必要なのは突き詰めること。「すごい」と思う感情の源を突き詰め、おのおのが導き出した「すごい」物語を書き記せば、必ずや結果はもたらされる。

工藤淳(「まんが王八王子店」小説担当)

 最初読ませていただいた時、「思った以上に最終選考作品が良かった」、というのが正直な感想でしょうか。ライトノベルのレーベルを持っている出版社の賞でもないのによくぞここまで集まったものです。そのせいかライトノベルらしい作品から、らしくない作品まで幅広く残ったと思います。もっともライトノベルらしかったのが大賞の『コトモノオト』。そのまま本屋で売っていてもおかしくないレベルの作品でした。あんな感じのイラストつけたら店で売れるだろうな、とか書店員として考えてしまうぐらいです。もっともライトノベルらしくなかったのが銀賞の『ファンダ・メンダ・マウス』。ギリギリライトノベル。これを評価し、栗山千明賞をあげられるのも新設されたばかりの賞ならではというところです。
 今回の第1回最終選考に残った作品にはファンタジー作品がひとつもありませんでした。一昔前のライトノベルといえばファンタジーが主流でしたが、今は学園と異能バトルが主流です。かといって読者がいなくなったわけではありません。需要は今も確実に存在します。なので、第2回にはぜひともファンタジー作品が多く応募され、そして最終選考まで残れるほどの作品が出てほしいものです。当方、ファンタジーに飢えています。

丸山晋司(「コミックとらのあな」)

 第1回『このライトノベルがすごい!』大賞の選考をお手伝いさせていただきましたが、普段こういう選考に携わったことがないのであくまでも書店員もしくは一読者として楽しく参加させていただきました。最終選考に残った作品を見ると「現代を舞台にしたファンタジー」や「SF」「学園ラブコメ」等、色々なジャンルの作品が残り各作品ともそれぞれ特徴のある作品でした。優劣を各作品につけるのは非常に難しく個人的には全て「大賞」でもおかしくなかったと思います。市場に出て読者の皆様がどのような反応をしていただけるか今から楽しみです。
 第2回『このライトノベルがすごい!』大賞への期待としては、今回最終選考に見受けられなかった「異世界」や「魔法」といったキーワードが出てくる「純ファンタジー」の面白い作品が出てくることを期待します。昨今のライトノベルでも相変わらずの人気を誇りつつも作品数自体が減ってきてしまっているこのジャンルがもっと盛り上がると業界全体が盛り上がるに違いありません! 第2回でもどんどん面白い作品が出てくることを期待しています。

編集部より

 ついに、最終選考結果をこのサイトで発表できる日が来ました。
 まずは、第1回『このライトノベルがすごい!』大賞にご応募いただきました応募者の皆様、この賞の運営に関わられた方々、そしてなにより、この賞に関心を持っていただき、当サイトやインターネットなどを通してこの賞を盛り上げてくださっている皆様(そう、まさに今この文章を読んでくださっているあなた)に、厚く御礼申し上げます。
 『このライトノベルがすごい!』大賞創設にあたっては、当初どの程度の応募者数が見込めるのか、まったくの未知数でしたが、結果として、予想をはるかに超える752作ものご応募をいただきました。本当にありがとうございました。
 最終選考にはバラエティに富んだ5作品が残り、最終選考委員による白熱した議論が交わされました。各作品の長所、短所についてはもちろん、「すごい!」とは何か? 何を『このラノ』大賞として打ち出すのか? といった点にまで議論は及び、改めて「新たな作品を世に送り出す」ということの責任の重大さを認識させられました。
 結果、今回は、欠点の少ない作品よりも、その作品にしか持ち得ない、突出した魅力を持った作品が選ばれる傾向にあったように思います。
 受賞作5作は、2010年9月10日に5冊同時刊行される予定です。受賞者それぞれの「すごい!」を突き詰めた結果がここにあります。応援よろしくお願いいたします。
 そして、既に第2回『このライトノベルがすごい!』大賞の応募も始まっています。
 「すごい!」とは「おもしろい」であり、「カッコイイ」であり、「かわいい」でもありえる。オリジナリティのある設定や、飛びぬけたキャラクターの魅力など、書き手の数だけ無数にある「すごい!」という感覚。自分自身の「すごい!」を極限まで突き詰め、それを読み手に伝えるための努力を惜しまなかった作品こそが次の大賞に輝くはずです。皆さんの「すごい!」作品を引き続きお待ちしております!